Yagi Yuna
2004年ニューヨーク・パーソンズ美術大学建築学部卒業。
「見る」という行為の体験を通して物事の真理を追求し、視覚と現象を用いたインスタレーション、建築などで使われる素材などを用いた平面と立体の間を行き来する作品など、一貫して「見ることの本質」をテーマに、作品に時空の概念を重ねる作品を制作している。
主な個展にPola Museum Annex 銀座「NOWHERE」(2018)、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭「種覚ゆ」(2021) など。
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」ポートフォリオ・レビュー 最優秀ハッセルブラッド賞(2016)受賞。金沢21世紀美術館所蔵(2021)
立体の原画作品を展開平面で表現。
アクリルの質感、立体感をUVシルクとエンボスの印刷加工で浮き上がるような効果を施し、2次元の中でも八木夕菜の世界観をそのままに落とし込んだ、意欲的な1枚。
¥19,800(税込)/配送料は購入手続き時に計算されます。
限定部数、アートエディション
完全限定生産。
プリント裏にはエディションナンバーが表記、世界に1枚。
フレーム/保管用パッケージ/ブックレット付
作品がすぐに飾れるようにフレーム付きの納品。
また、パッケージは保管用にも使用できるフラットタイプ。アーティストや作品をより楽しむため、1作品ごとに特製ブックレットも付録。
Interviewed by.
Yuna Yagi
活動コンセプト
八木さんのアーティスト活動のテーマを教えてください。
「視る」ということをテーマに、作品制作をしています。「視る」ということは、世界を認識することであり、自分を知ることでもあります。さらには、客観と主観という形而上学的に重要なテーマとも繋がっていると思うので、「視る」ことをテーマにしています。
「視る」ということに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。
きっかけは建築への興味です。世界を認識する方法は、「視る」こと以外に、「聴く」ことや「触れる」ことがありますよね。建築は「視る」と同時に「触れる」ことによって体感することもできます。それで建築に惹かれて学んだのちに、海外の建築事務所で勤務していました。
そのうち建築体験を表現する方法として写真を始めました。最初は記録用として撮っていたのですが、ただ記録するというよりも表現の方へ興味が移行していきました。建築で感じる空間の認識=体験を、写真を通じて表現する方法を追求していきました。
最近では、銅板印刷での表現もされていますね。どんな文脈でしょうか?
アクリル作品と同様に、写真を彫刻作品にしたいと思いました。プリントは平面の世界と一般的に認識されていますが、素材を折り曲げることで写真に三次元の要素が加わります。写真が三次元になることで視点が増え、身体を使って空間を捉える視え方に変化します。
「KENCHIKU_quadrangular prism」への想い
今回の作品の元となった『KENCHIKU』シリーズについて教えてください
2015年から継続して制作しているアクリルと写真の組み合わせのひとつが「KENCHIKU」というシリーズ作品です。これは、抽象的に切り取られた建築写真をアクリルブロックにプリントをした作品です。厚みのあるアクリルを利用することで、写真が万華鏡のように反射し、中を覗くと見たことがあるようでない不思議な空間が広がります。固定されているはずの写真が、見る角度によって思いもよらない「何か」に変化し、鑑賞者の知覚を揺さぶります。
今回は、その立体作品を原画として、アクリルの中を覗いたときの見え方を展開図に置き換えました。高い印刷技術を活かし、平面でも立体感を出すためにエンボス加工を施しました。さらに、アクリルの透明感と艶を表現するために、UVシルク印刷を重ねました。
元写真はどこで撮られたもので、何故これを選ばれたのですか?
建築家の伊東豊雄さんが設計された「瞑想の森 市営斎場」です。現代建築に限った日本の祭儀場を記録していた2017年に撮影したものです。*
「瞑想の森 市営斎場」は、故人を偲ぶ場ですが、建築の形態がとても軽やかで美しく、この世にはないような空間でした。ここでは、場所性よりも形態の美しさを抽出し、意味を持たせないようにしています。
*「祈りの空間(2017)」
アーティストとしてのキャリアについて
アーティスト活動についてお聞かせください。
作品を通じてこれまでにない視点を提供し、「視る」という行為とその概念を再構築することに挑んできました。2022年の東京での個展『視/覚の偏/遍在』では、人が「視る」という行為とその認識のズレに着目しました。それによって、主観性の揺らぎを明示したかったんです。
2021年のKYOTOGRAPHIEのメインプログラム『種覚ゆ⁄ The Records of Seeds』では、農業と食の問題に焦点を当て、自然の記録装置である種を描写しました。この作品群ではサイアノタイプという日光写真の手法を用いています。この手法を用いることによって、自然における光、水、土といった、視覚情報としては得られているにもかかわらず、我々が普段は明確に認識していないものを、「視る」ことが明確な認識に繋がるような形で提示しました。2019年のKG+『Blanc⁄ Black』は、多重露光と多重印刷を用いた作品です。多重露光は白(Blanc)に、多重印刷は黒(Black)に写真が近づいていきます。これは、「視る」という行為の解像度を上げていくと、全てが在ると同時に無なのではないか、つまり「空の概念」に繋がるということを表現したものです。
金沢21世紀美術館にも八木さんの作品が置かれていますね。
そうですね、金沢21世紀美術館には、『種覚ゆ⁄ The Records of Seeds』という作品が収蔵されています。美術館にコレクションされることは初めての経験でしたが、特にこの作品が収蔵されることは、私にとってとても興味深いことでした。美術館にはそもそも、時代を超えて作品を保存するという機能があります。一方で、種も自然を記録して保存する装置といえます。つまり、本作品が収蔵されるということは、種という記録装置が美術作品として変換され、文化と自然、両方の記録装置となり長期にわたって保存されることになるんです。地球環境やテクノロジーの発展により人々の生活が変化していく中、100,200年後の地球環境はどのように変化し、その頃の人類にこの作品はどのように映って、どのように意味付けするのでしょうか。その頃には私は存在していませんが、美術館は100年、200年先にも保管すること目指していますから、私も生まれ変わったら、自分の作品を目にして当時の自然に触れる機会があるのかもしれません。
八木さんのパーソナリティについてもぜひお伺いしたいなと思います。
小さい頃はどんな子でしたか?
小さい頃は名前を呼ばれるだけで照れてしまうシャイな子でした。母親が環境芸術家※なので、幼少の頃から母が作った作品で遊んだり、作品制作を手伝ったり、現場に連れられたりと、常にアートが身近にありました。母が海外出張などでいない日が多かったので、月とよく対話をしていました。雲の動き、月や星の変化を眺め、何かと空の変化を観察していたと思います。あと、自分の部屋に閉じこもって引き出しの中をひたすら整理したり、家の間取りを描くのも好きでしたね。
※環境芸術家の八木マリヨ氏
アートを始められたきっかけは何ですか?
母親がアーティストでしたが、当時はアートが何なのかよく分かっていませんでした。特に教えられたこともなかったですし。進路を考えるにあたり、機能的で目的のあるもの、理論や合理的なものの上に成り立っているものが良いと思い、建築デザインの道を選びました。米国と欧州で建築に取り組んでいたのですが、そのうち建築を取り巻く世界に窮屈さを感じるようになりました。ちょうどその頃に写真と出会ったことで自分自身の表現の場を見つけられたように思います。写真を発表するようになると、次第に目的が何であるかを考えるようになり、建築を学んで培った要素を取り入れ表現するようになりました。今はそれら全てが自分自身のアイデンティに繋がっているように思います。
八木さんは現在京都で活動されていますが、ご出身も京都だったのでしょうか。
出生は兵庫ですが、幼少期から中学までは比叡山の麓にある比叡平(ひえいだいら)※という小さな住宅地に住んでいました。中学生の頃は比叡平から京都にバスで通っていました。その頃から鴨川の側に住みたいと思っていました。京都は歴史も深く、伝統文化や芸術、学問と様々な分野の専門家が住む素晴らしい街です。自然と街の距離感やサイズ感、人がちょうどいいバランスで成り立っているのが好きで、海外から日本に帰ってくるタイミングで京都に住むことを決めました。
※滋賀県 大津市、京都と滋賀の境の地名。
京都の中でお気に入りのスポットはありますか。
建築でいうと近代建築、その中でも京都でしたら大谷幸夫設計の京都国際会館が好きです。戦後、高度成長期を迎えた日本が、万博、オリンピックと国際的に声を挙げ、日本人が国際的にどう在るべきかを、政治、経済、作り手がひとつとなって取り組み、大きなエネルギーを生んでいました。それらのエネルギーが集結した歴史的にも意義のある建築だと思います。日本の文化の原点を探りながら、これからの日本を背負っていくという意気込みをこの建築には感じます。内部に入ると、とてもダイナミックな空間も広がります。何度訪れても感銘を受ける、特別な建築だと思います。
ichimaiの仕上がりと楽しみ方
プリントの仕上がりや、印刷表現の感想を聞かせてください。
一枚のプリントに対して様々な印刷技術を使用することで、想像以上に立体的に仕上がり、「ただプリントしただけではない」奥行きのある表現になり、とても満足しています。作品部分に施したUVシルク加工(光沢のある部分)は光を反射し、アクリルの質感に近い雰囲気を出すことができました。また、エンボス加工によって浮き上がった部分に若干の影が落ちる点も気に入っています。印刷もとても綺麗なので、ぜひ近くで見ていただきたいです。
この先の活動について
アーティストとしての活動の目標を教えてください
人は構造上、自分という主観性の物語からしか世界を認識できません。言い換えれば自分は80億分の1に過ぎないのだと、本気で実感することはできないということです。この事実は、多様性の受容や、他者への共感への大きな障壁になっていると思うんです。「視る」ことにフォーカスを当てた作品を通じて「視点を変える」「他視点を持つ」を体感してもらい、人々の意識に変容を起こせたらと願っています。その積み重ねが、平和な世界の実現に一助になっていけばいいなという思いを持っています。
購入してくださった方に、コメントをお願いします。
そうですね。「視る」ことによって何かを感じてもらえたら嬉しいです。実際に作品を手に取って、その人なりの余白の感じ方や、視え方に気づいてもらえれば嬉しいです。そして、自身の「視え」方の変化に合わせて、作品がどのように変化するのか、注目して欲しいなと思います。
「ichimaiプロジェクト」はいかがでしたか?
今回の「ichimaiプロジェクト」で、質の良いプリント作品をたくさんの方にお届けするとともに、これまでにない「KENCHIKU」作品の拡がりを実現できました。今まで私の作品を知っていただいていた方も、今回初めて知って頂いた方も、アート作品のある日常を楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【Print journey】~製造現場を見学して~
八木さんには、朝から夕方まで、草津滋賀県から東大阪市まで様々な加工、印刷、特殊印刷、ご覧いただきました。いかがでしたか?
職人さんたちのプロ意識が素晴らしかったです。プリントの前段階から、色校正し、版を作って、プリントディレクターの方たちが目視で確認して…。大半がデジタルでの作業だと思っていましたが、多くの職人さんたちが関わり、実際に手を動かして目で見てという確認作業が多く、いろんな方の手に渡って出来がった作品なんだなぁと、お一人お一人のお顔を思い浮かべながら改めて感動しています。
印刷工場では、サンプルをたくさん見せていただいて、色の構造をわかりやすく説明して頂けました。構造自体はシンプルですが、色表現の精密さに驚きました。その後のシルクプリントについては全くイメージがついてなかったのですが、ズレがないように一枚一枚丁寧に手作業で作られているということが現場を見てわかりました。最後の「空押し」の工程では、「空押し」を専門とされている業者さんを訪ねました。1mmもズレがなく、また空押しの深さについても微細な調整をしてくださりました。イメージをかたちにして下さる方達がいてこそ、作品が完成する。多くの方が関わってくださった賜物なんだなぁと感動しました。東大阪の町工場の昭和の雰囲気を味わえたのも楽しかったですね。