photo by Haruka Oka,Mitsuru Wakabatashi
松岡柚歩「outline」シリーズの描きおろし作を、トリミングして表現。それぞれの色と3次元性が作用しあい、見る側の視覚を試してくる。作品の正しい方向はなく、どの方向で飾るかは見る側に委ねられる。
レイヤーが織りなす原画の立体感、色彩を見事にリプロダクトした1枚。
¥19,800(税込)/配送料は購入手続き時に計算されます。
重なり合う表現と技術。
様々な特殊加工が重なりあうプリント表現は、印刷技術の限界を試す1枚に。商業印刷の世界では、決して行わないであろうプリント表現。
フレーム/保管用パッケージ/ブックレット付
作品がすぐに飾れるようにフレーム付きの納品。
また、パッケージは保管用にも使用できるフラットタイプ。アーティストや作品をより楽しむため、1作品ごとに特製ブックレットも付録。
Interviewed by.
Yuzuho Matsuoka
コンセプトについて
アーティスト活動のコンセプトについてお伺いしたいです。
普段は平面作品を中心に制作していますが、テーマとしては制作者と鑑賞者の視点の関係性や違い、曖昧さです。
このシリーズ以外にも模様や柄をモチーフにした作品がありますが、それは上下左右のないという要素を取り入れるためです。視点がぐるっと回ったり、隣り合った色同士がどういう作用や反応を起こすかを考えながら構成しています。
鑑賞者の視点が回ったり、作品自体を回したりすることで、見え方や影の感じ方が変わります。1枚の中でどれだけ面白いものを発見できるか、面白いものを作れるかを意識しながら制作しています。
制作する時も、色々な視点で見ながら作られているのですか?
自分自身も絵の周りを回るように作っていて、これで完成かなと思ったタイミングで壁に絵を掛けて、いろいろな方向に回転してみて、この向きだとこういう見え方がするなとか、どの色にまず目がいくなとか、そういうことを考えながら作っています。また、展覧会会場で並べてから方向が変わることもあります。作品をどう扱うかは場所や見る人によって違うので、それも新しい絵画の見方の面白さだと思い、肯定的に捉えています。
アーティストとしての活動について
アート活動のきっかけについてお伺いしたいです。
作家を目指すようになったのは、大学の四年生の頃です。もともとは学校の先生になりたかったので、教職課程を選択して教育実習にも行っていました。その実習の時に、自分が伝えたいことや行いに責任感が持てていないと相手に伝わらないことを実感しました。
当時は教員と同じくらい作家になることも考えていたので、その時を境に自分のやるべきこと、やりたいことをじっくりと考え、教職課程を取得した後に作家活動を目指すことにしました。その時の選択が今の制作の原動力にもなっていると思います。
なるほど、では大学を卒業してから本格的にアーティストとして活動をスタートされたのですか?
大学を卒業後はアーティストとしてどうやっていくかを意識しながら大学院に通っていました。
いろいろと展覧会をさせていただいたのは、大学院を卒業してからになるので、「アーティスト活動をスタートした」となるのは、そのぐらい(2021年)かなと思います。
今、積極的にいろんな展示会に出されていますが、自分自身が評価されたり、見てもらえるようになったなと感じた瞬間や思い出深い展示会はありますか?
一番思い出深い展示は、在学中にシェル美術賞展(現:Idemitsu Art Award)に応募して「学生特別賞」をいただいた展覧会です。ちょうどコロナの自粛期間中で作品を見てもらう機会もなかったので、自分自身もどう作っていいのか、作品は本当にこれでいいのかがわからなくなっていました。そんな時にアワードで賞をいただいたことで、制作活動を続けていく自信に繋がりました。美術館で展示の機会を得られて自分の作品の方向性が決まったので、その展覧会が一番印象に残っています。
また、平面作品と同時進行で昔からテキスタイルの作品も少しずつ作っていて、それの大きい作品を2022年末の個展に出しました。平面作品とは繋がっているけれど、立体要素が強い作品で、いろんな人に新しい反応をもらえたので、自分としても嬉しく、この個展も印象深いです。
作品のシリーズについて
シリーズとしては「outline」シリーズとインスタレーション以外に、他にありますか?
今回ポスターにもなった「outline」というシリーズのほかに、絵の具が剥がれているシリーズや、自分で一から紐を編んでいくシリーズもあります。学生の時に色々作っていたものを徐々に拾い集めている感覚です。急に「これだ!」というものができるタイプではないので、ひとつのシリーズをしっかり形にできるようになってから、次を考えていくタイプです。同時進行でいろんなシリーズを作っています。
作風や表現につながる、原体験はありますか?
昔からジグソーパズルや組み立て系のブロック遊びが好きでした。それをずっとやっていたので、脳がそういう作りになっている気がします。図像のつながりにも興味があり、その感覚は今の作品作りにも通じています。また、既製品を分解することも好きで、一つ一つのパーツを見てから、やっとそのもの自体が自分の中にインプットされる感覚があります。パーツが一つになることや、一つがパーツでできていることに昔から興味があるんだと思います。
今回の「outline」シリーズはどのようにして作られているのですか?
このシリーズは、絵の具を何層にも流し込んで模様を作り、その上に色面を構成していくという作り方です。パネルに筆で描くことに対して、自分の感じていることが筆を通すだけで自分のものではなくなる感覚があるので、細かいところ以外は筆を使わずに制作しています。自分の手で直接伝わってくる感触や温度感のリアルさを自分の中で大切にしているんだと思います。
色のところも手で顔料を擦り込んだり、グラデーションも何回もスキージーで流し込んだりしています。絵の具の質感や重さのなどの作業中の手元の感覚が好きです。絵ではなく立体物を作っているような意識に近いのかなと思っていて、「絵画をどう作ったら立体っぽく見えるか」「これは立体物なのか絵画なのか」という物事の捉え方の曖昧さや個人差も作品のテーマにつながっています。
松岡柚歩の原風景
小さい頃、どんな感じの子供でしたか?
私の家は女性ばかりでした。父が単身赴任で家にいないことが多く、母と姉と私と愛犬で。伯母も祖母も近くに住んでいました。私は年齢的に一番下だったので、よく怒られていたしよく泣いていました。でもそのおかげでいろいろできるようになったかなと思っています。基本的に厳しかったのかなと思いますが、自由にさせてもらえる部分もありました。でも、実家に帰ると少し肩身が狭い感じがします(笑)。
いまだに「これやっといて」「あれやっといて」とか、「これについてきて」「これってどうなの」とか結構聞かれたり頼まれることが多いです。何年経っても変わらないなと思います。それに対して昔は文句ばかり言っていましたが、今はそれも性に合っているかなと思います。
周りの誰かが美術系の仕事をしていたわけではなく突発的、突然変異みたいな感じで松岡さんが出てきた感じですか?
そうですね。でもなんとなくみんな絵とか美術は好きだったのかなと思います。それぞれ職業は全く違い、医療系だったり、会社員だったり。でも、母は美術館に行くのが好きで、よく連れて行ってもらっていました。
小さい時は私より姉の方が絵が上手だった印象があります。姉が見ていた漫画やアニメを一緒に見ながら、「なんで私はお姉ちゃんみたいにできないんだろう」と思っていました。でも今は、姉は芸術系とは別の方向に進み私は絵の方に進んだので、何が起きるかわからないものだなと思います。
両親も美大に行くことを許してくれ、「まさかこんな年まで絵を続けているとは思っていなかった」とよく言っています。
京都についてと好きなこと
京都での活動は長いですか?
そうですね。18歳、19歳ぐらいから京都に一人暮らしをしているので、約9年になります。在学中は大学の近くに住んでいましたが、その次はアトリエを探して山の方に住んでいました。現在のアトリエ(京都市山科区)が三拠点目で、今が一番住み心地がいいと感じています。京都はコンパクトで、住んでいる場所からすぐ近くに有名なお寺あったり、そういったものがわざわざ足を運ばなくても近くにあるという特徴が面白いです。
京都で好きな場所はありますか?
街中よりも少し外れたところが好きです。岡崎・平安神宮エリアも好きです。また、偶然ですが今まで川の近くに住んでいたことが多く、川を見ながら歩く時間が好きです。鴨川以外だったら住宅街にある小さい川も好きで、周辺の流れる空気感がゆっくりしていていいなと思います。地元であまり川をじっくりと見た記憶がないからか、京都に来てから川に惹かれることが多いです。
制作以外に好きなことはありますか?
遠くまでドライブするのが好きです。あとはアイドルのパフォーマンス動画を観ることが好きで、男性、女性問わず、いろいろなアイドルグループのエンターテイメントの作り方を観るのが楽しいです。曲を聴くのも好きで、特に日本のアイドルが世界にどう進出しようとしているかに興味があります。衣装の作り込みなどもよく観てしまいます。制作で手が止まってしまった時に動画などを観ると、あとちょっとだけ頑張ろうとなります。たくさん元気をもらっています。
今後の活動について
今後の活動について考えていることはありますか?
今まで京都で制作しながら個展やグループ展などの展覧会を中心に活動してきましたが、最近は自分の生活も同じぐらい大切にしたいと思っています。特に自分の知らない土地に行きたいと思うことが増えました。ゆっくりと知らない土地を歩くことも大好きですが、今は国内外で有名な場所を見たいと思っています。以前訪れた旅行先で、教科書で見ていたものがやっと自分の中に入ってくる感覚がありました。いろいろなものを答え合わせしていきたいんだと思います。
制作面では、絵を描き続けるために何をすべきかを現実的に考えていきたいです。
大きな目標はありますが、まずは目の前のことを一つずつ達成していくことが重要だと思います。
目の前の目標を一個ずつこなしていくタイプなんですね。
そうですね。大きな目標はもちろんありますが、到達のためには今の自分では無理だと思ってしまうこともあるので、それよりも手前の小さな目標を細かく立ててから達成、また考えて達成するというタイプかなと思います。それを繰り返すことで次第に大きな目標に近づくんじゃないかな、と。あまりにも遠かったり、わからないことがあったりすると、急に次の動きがわからなくなってしまい現在の行動が止まってしまう感覚があるので、一番見えている問題から一つずつ潰していくことで、次が見えてくる気がします。
“ichimai”について
原画作りにおいて、印刷されることを意識しながら作られましたか。
印刷される際に同じ質感が並ばないように心掛けました。いろいろな要素を詰め込みたくて、シルバーでも普通のシルバーではなく、下に黒を仕込んでからシルバーを塗装するなど工夫しました。印刷でも絵の具の質感や重さを表現することにこだわりました。
今回は事前にいろいろな印刷技術を見せていただいていたので、じゃあ色んなことをしてもらおうと思い(笑)。
思う存分、いろんな要素を詰め込めた作品になったので嬉しいです。
プロダクトの仕上がりはどんな印象でしたか?
仕上がりは絵の具の質感がほとんど現物に近い感じで、実物に劣らないような質感だったり、絵の具の発色だったり、影の部分まで印刷してくれることで平面だけど立体的に見えるっていう印刷ならではの見え方もできているなと思いました。
私的にはすごく満足していて、このクオリティの物でポートフォリオも印刷してみたいなって思います。
原画は正方形ですが、「ichimai」ではA3の長方形にトリミングしました。
感じてほしい部分はありますか?
現物と印刷の違いがあった方が、比較をより楽しんでもらえるのではと思いました。お気に入りの部分や見てもらいたい部分を強調するために、あえてトリミングしました。
手にされた方にコメントをいただきたいです。
展覧会で見るときと家で見るときで、時間の経過や光の入り方で作品の見え方が変わったり、自分の気持ちが沈んでいたり上がっていたり、些細な気持ちの変化で全然違う様に見えてくる。そういうことって割と長い期間作品を見ていないと感じれないことだと思います。
アートを近くに感じる、もっと近くに感じるきっかけというか、次に繋がるものになっていただければ嬉しいなと思います。
ichimaiプロジェクトに参加してみての感想的を聞かせてください。
印刷の案件にしっかり取り組んだのは今回が初めてでした。最初は半信半疑でしたが、いろいろなお話を聞いて実際にやってみたいと思いました。この経験は作品以外のアウトプットの方法やポートフォリオ作成にも活かしたいなと思います。